猫のアトピー性皮膚炎の原因は?「治らない」の誤解と飼い主にできること
ツイートアトピー性皮膚炎の湿疹はもうれつなかゆみを伴います。それは猫でも同じ!ヒトの場合は肌が乾燥しているとか、赤みがある、湿疹があるといった変化はわかりやすいですが、被毛でおおわれた猫の場合は発見が遅くなりがちです。「かゆい!」と訴えてもくれませんし・・・。
アトピー性皮膚炎は何らかの原因物質(アレルゲン)に接することによるアレルギー反応が皮膚にあらわれた疾患です。強いかゆみのある皮膚症状が慢性化し、毛が抜けて初めて異変に気づく飼い主も少なくありません。
体質と言ってしまえばそれまでですが、かゆがっている愛猫の負担を少しでも減らしてあげたいですね。この疾患は、飼い主の意識ひとつで猫のQOL(生活の質)が大きく変わります。
それに、慢性の疾患はその猫を一番よく知る飼い主の観察と情報が治療効果を大きく左右します。この記事では、猫のアトピー性皮膚炎の症状と治療方法について、さらに症状を悪化させない日常生活でのポイントを紹介します。
猫のアトピー性皮膚炎の症状とは?被毛の下をチェック!
猫がかゆがっていたり、執拗に毛繕いをしていたら皮膚の様子を観察してあげてください。毛が抜けて湿疹があらわになっていれば分かりやすいのですが、猫の毛は柔らかく密集しているので、小さなものや赤味が差している程度ではパッと見ただけでは見落としがちです。
それに、以下に紹介する無痛性潰瘍や初期の好酸球性肉芽腫病変部には痒みは無いといわれています。一旦かゆみが始まると、猫自身によって舐めたり掻き壊したりして悪化させたり他の感染症を併発させてしまうので、早期に発見することが大切です。
猫のアトピー性皮膚炎発症のしくみを知ろう
猫のアトピー性皮膚炎はアレルギー疾患のひとつです(この場合食物アレルギーとは区別します)。アレルギーとは本来生体にとって無害であるはずのものが、体内で異物とみなして異常反応してしまう現象です。
アレルギーを引き起こす物質(アレルゲン)はヒトと同じように猫によってさまざまですが、発症のメカニズムは共通しています。
アレルギー発症には前段階というべき現象があります。体内に最初に異物が侵入すると免疫反応が起こりますが、異物だと認識されたものに対してIgE抗体がつくられます。
つくられたIgE抗体は血液中の肥満細胞(マスト細胞)の表面にくっつきます。これを感作(かんさ)と呼びます。この感作がおこるとアレルギー発症の準備ができたといえるのです。嬉しくないですけど。
そして、再びアレルゲンが入ってくると、肥満細胞から刺激性物質が放出されてかゆみや炎症等の皮膚症状があらわれます。
猫のアトピー性皮膚炎で湿疹の出やすい場所
当然ですが皮膚は全身をおおっています。その中でも、猫のアトピー性皮膚炎で湿疹が出やすい部位があります。
- 目の回り
- 口の回り
- 結膜
- 耳介(耳のひらひらした箇所)
- 指の間
- わきの下
- 鼠径部(そけいぶ=下腹から内股にかけての部分)
- 足首付近
- 関節の屈曲部
ただ、重症化すると下腹部全体、さらには背中一面などかなり広範囲に湿疹があらわれることもあります。
猫アトピー性皮膚炎でみられる好酸球性肉芽腫症候群とは
好酸球性肉芽腫症候群・・・なんだか仰々しい病名ですね。でも猫アトピー性皮膚炎の診断には欠かせない知識なのでざっくり知っておきましょう。
好酸球とは、血液中にある白血球のひとつで、主に感染症やアレルギーに関与しています。Ⅰ型アレルギーや感染症が起こると増殖します。
肉芽腫という言葉がなんだか危険な感じしますよね。でもこれは病態を医学的に説明したらこういう名称になった・・・って程度なので安心してください。
ケガや炎症が起こるとその部分が損傷しますね。その損傷した部分を埋めようと皮膚の元になる繊維組織や毛細血管が増殖します。このときにできるピンク色のぷにぷにしたやわらかい組織を肉芽組織といいます。
この肉芽組織が増殖してできるものを肉芽腫と呼ぶのです。肉芽腫の「腫」は腫瘍ですが、この意味は生体内の秩序に反して自律的に過剰に増殖する、というものです。
好酸球性肉芽腫症候群の3つのタイプ
症候群と呼び名がついているように、特徴的な同一の原因から起こる症状のまとまりです。好酸球性肉芽腫症候群はできる部位や症状によって3つに分けられています。
口唇にできる潰瘍。主に上唇に発症して初期は赤く唇がめくれ上がったような状態になります。一般的に痛みもかゆみもないといわれています。ただ、臨床的には痛みを感じている猫さんもいるようです。
首、腹部、内股、脇の下、指の間の皮膚に見られる、平坦に盛り上がったもの。プラークは日本語で局面。局面は皮膚科的に言うと、幅広くほぼ扁平に隆起する面積の広い皮疹のことで、約2cm以上のものをいいます。0.5cm〜2cmのものを小局面、0.5cm以下のものを丘疹といいます。
プラークは皮膚との境界がはっきりしないもの(ただれている状態:びらん)と境界がはっきりした大きなものが多数発症しているときがあります。
強いかゆみがあり、脱毛と皮膚の赤味があります。
呼んで字のごとく、好酸球性肉芽腫のうち線状に盛り上がった病変で主に太ももの後ろ側、腹部の横側、前足の外側に発症します。また、唇、顎先、肉球、舌、口蓋弓、口蓋にできる好酸球性肉芽腫もあります。
猫に特徴的な粟粒性皮膚炎とは
猫の皮膚炎で多く見られる病変に、粟粒性皮膚炎(ぞくりゅうせいひふえん)があります。これは、粟粒くらいの小さいぶつぶつとしたかさぶた状の病変で、撫でるとざらざらした感触が感じられます。
背中に多発する粟粒性皮膚炎はノミアレルギーによるものが多く、このタイプの皮膚炎はアレルギーに大きく関与しているとみられています。
病変部の組織検査では多くに好酸球がみられ、臨床的には好酸球性プラークの前兆症状と捉えられています。
猫のアトピー性皮膚炎の診断で大切なこと
猫の皮膚炎はさまざまな原因で起こり得ます。それがアトピー性皮膚炎であるかどうかの確定診断は現在のところこれが決め手!というものはありません。
皮膚の病変、かゆみの有無、慢性症状であることなども診断に関して大きな要素となりますが、例えばノミアレルギーなど、原因がはっきりして尚且つ治療ができる皮膚炎もあるので、それら皮膚炎の有無をひとつひとつ検査をして除外していくことでアトピー性皮膚炎だと診断していきます。
猫に発症するかゆみの強い5大皮膚炎
先述したように、猫の皮膚炎がアトピー性皮膚炎であるかどうかは、これといった診断方法はまだ確立されていません。同じような症状が出る他の原因を除外していくことで診断されます。
猫の皮膚炎で強いかゆみを伴うものは一般的に以下の5つです。
- 外部寄生虫性皮膚炎
- 細菌性皮膚炎
- 真菌性皮膚炎
- 食物アレルギー
- アトピー性皮膚炎
皮膚炎で受診した際には、まずその皮膚炎が細菌やノミダニなどの寄生虫によるものでないかを検査します。原因が特定されれば、適切な治療によって皮膚炎は完治します。
(1)~(3)が原因であれば、駆虫や投薬によって完治します。(4)の食物アレルギーの場合は、アレルゲンを特定することはなかなか大変ですが、除去食によって改善されることが多いです。
実は、アトピー性皮膚炎と他の感染症を併発していることは多く、また食物アレルギーであることも少なからずあります。
原因が(1)~(4)ではない、または治療して完治しても皮膚症状が改善されない場合はアトピー性皮膚炎と診断されます。
アレルゲンを特定する皮内検査と血液検査
猫の場合も、アトピーのアレルゲンは環境因子であることがほとんどであるため、ゼロにすることは現実的には不可能であることは確かです。
ただ、アレルゲンを特定してそれを極力排除する生活を送ることは、皮膚炎を悪化させずに管理するためには大切なことです。
花粉、ハウスダスト、ダニの死骸や糞、カビの胞子、環境中の揮発性有機化合物など
アレルゲンを特定する検査方法はおおむね皮内検査と血液検査の二つです。
少量のアレルゲンを皮内に注射して皮膚の反応を見ます。まず局所を剃毛しあらかじめ用意した抗原液を注射しますが、多くの場合麻酔下で行われます。
ステロイド剤や免疫抑制剤、抗ヒスタミン剤などを投与している場合は休薬してからの検査となります。
採取した血液の血清中のアレルゲン特異的IgEの量を測定します。特異的IgEはアレルギーを引き起こすアレルゲンを特定するための検査で、「スギ花粉に反応するIgE」、「ハウスダストに反応するIgE」など何のアレルゲンにIgEがどのくらい増えているかがわかります。
検査結果をどう判断するか?
まず、皮内検査ですがアレルゲンとなり得る多数の抗原液を用意する必要があることなどから、実施している動物病院は限られています。
また、鎮静(麻酔)をしての検査となりますので、猫にも負担がかかる検査です。
血液検査(アレルゲン特異的IgE検査)は血液を採取するだけでわかりますので、猫の負担は少ないといえます。ただ、IgEの数値が高いからといって必ずしも発症するとは限りません。
アトピー性皮膚炎の発症は、皮膚の状態などそのほかの要因も大きく関係しているからです。
この検査は、検査の時点でどのような物質を異物としてIgE抗体を作っているかを見るために行われます。IgEが高いということは、それだけそのアレルゲンに反応する確率は高いといえるでしょう。
受診の前に・・・飼い主が注意する猫の行動
どんな病気でも早期に発見して適切な治療や生活習慣の見直しで、症状を軽減させたり悪化を防ぐことは可能です。猫の皮膚炎の場合、自分で掻き壊したり舐め行動による他の細菌等の二次感染を引き起こしやすいので、特に重要です。
愛猫にこのような様子が見られたら要観察です。動物病院で診察を受ける際に、詳しく説明できるようにメモをとっておきましょう。
- 体をしきりに掻いている
- 執拗に毛繕いしている
- 耳垢がたくさんある(外耳炎の疑い)
- 脱毛している
- 目の粘膜が赤い(結膜炎の疑い)
- 口の周りに潰瘍ができている
アトピー性皮膚炎は比較的若いときに発症します。生後半年~2歳くらいまでが一番多い発症年齢ですが、生後3ヶ月くらいで発症する猫もいます。また、高齢になって発症することもあります。
猫のアトピー性皮膚炎の原因は?考えられる3つの要因
猫がアトピー性皮膚炎になる原因はいったいなんでしょう?同じ環境で暮らしているにも関わらず、特定の猫に見られるこの疾患の原因は、おおよそ3つの要因に関与していると考えられています。
アレルギー発症と大きく関係しているIgE抗体が作られやすい体質は遺伝と関係してるとみられています。
皮膚の役割に体内の水分を蒸発させない・外界からの異物の侵入を防ぐというバリア機能があります。
そのバリア機能が何らかの原因で低下して、乾燥したり異物の侵入がしやすくなることもアトピー性皮膚炎の要因となります。
温度や湿度にも影響されることもあります。また、ストレスは発症や症状の悪化に大きく影響します。
猫のアトピー性皮膚炎の治療は?
猫のアトピー性皮膚炎の治療は、そのほとんどが対症療法となります。これは、人間のアトピーでも大差ありませんね、現在のところは。
しかし、強いかゆみや脱毛など辛い症状を軽減してあげたいですね。アトピー治療で使われる薬をいくつか紹介します。飼い主さんにはぜひ知っておいて欲しいと思います。
ステロイドは猫の副腎で作られるホルモンのひとつです。体の中の炎症を抑えたり、体の免疫力を抑えたりする作用があります。猫の病気の治療薬として幅広く使われています。
猫のアトピー性皮膚炎に対しては効果が高い薬ですが、高用量・長期間の服用では副作用が心配されます。
ヒスタミンは体内にある物質で、アレルギー反応や炎症が起きたときに増え、かゆみの原因ともなります。これを抑えるのが抗ヒスタミン剤ですが、単体での効果は薄く、かゆみを完全に抑えることはできないといわれています。
ステロイドほど即効性はなく、効果があらわれるまで1ヶ月程度はかかります。ただ、その分ステロイドより副作用が少ないお薬です。問題は、かなり高価であることです。
細菌や真菌など感染症を併発している、または二次感染を抑えるために処方されることがあります。
ステロイド剤・抗ヒスタミン剤・免疫抑制剤による投薬治療は、あくまで対症療法で、アトピーを完治させるものではありません。獣医さんはアトピー治療に関しては「上手に管理(コントロール)していく」と表現しますね。
例えば、皮膚症状が重症のときはステロイドで一気に炎症を抑え、様子をみながら免疫抑制剤に切り替えていったり、副作用のリスクを踏まえて休薬期間をとりながら、かゆみは多少残っているけれどQOL(生活の質)を保った生活を送れることを目指すわけです。
当然、投薬による治療は個体に合わせて調整されるべきで、獣医師と相談しながら適切に行っていくことが重要です。
アトピーでもQOLを下げない猫の日常生活の秘訣
猫のアトピー性皮膚炎は長く付き合っていかなければならない疾患です。皮膚症状が出たときには、まず動物病院で他の感染症の有無を調べましょう。
また、犬よりは少ないといわれますが、アトピー性皮膚炎の猫は食物アレルギーを持っていることもあるので、疑われる場合は食物アレルゲンに関しても考慮しましょう。
その上で、皮膚炎を悪化させないためには皮膚のケアや環境要因を極力取り除くことが重要です。飼い主さんができることはたくさんあります。
猫のアトピー性皮膚炎対策の基本!清潔な室内環境
人間のアレルギー対策と同じです。室内のハウスダストをなるべく減らす工夫をしましょう。こまめな掃除!これが基本ですが、いくつかのポイントがあります。
- 拭き掃除から
- 換気をする
掃除機をいきなりかけるとかえって埃を舞い上がらせてしまいます。先に拭き掃除から始めましょう。クイックルワイパーが便利ですね。換気をすることも忘れずに。
ハウスダストの多くはダニの死骸です。布物にはダニが多く生息しますから、できればぬいぐるみなどは避けたいです。畳みやカーペットも繁殖しやすいので、床はフローリングが望ましいです。
猫の寝場所には布物は必須ですね。これもこまめに洗濯しましょう。人間の寝具もカバー類はまめに洗濯する、布団は干すか布団乾燥機を使ってダニの繁殖を防ぎましょう。
皮膚は乾燥するとささいな刺激でもかゆみが起こります。加湿器を使うなどして湿度を保ちましょう。
シャンプーは慎重に!獣医師とよく相談しましょう
アトピー用として紹介されている犬猫用シャンプーもありますが、使用には十分注意が必要です。もともと猫はシャンプー嫌いな子が多いです。それに、健康な状態であればシャンプーを必要としない動物です。
アトピー用とうたわれた商品は、本来薬浴の意味合いがあります。外用薬を使いづらい動物(被毛に覆われた犬猫など)に、薬剤を配合した液体でマッサージしたり洗浄することによって皮膚症状を改善することが目的です。
薬用シャンプーには、保湿効果のあるもの、ベトベトやカサカサを解消するもの、抗菌性のあるものなど種類があります。
アトピーの猫に自己判断でシャンプーするのは、症状を悪化させるなどリスクが高いので、必ず獣医さんと相談してください。正しい薬用シャンプーのやり方もしっかり教わりましょう。
丈夫な皮膚を作って猫のアトピー性皮膚炎を改善しよう!
健康を維持するためには適正な食事が欠かせません。猫に必要な栄養素のうち必須脂肪酸というものがあります。
猫に必要な5大栄養素はたんぱく質・炭水化物・脂肪(脂肪酸)・ミネラル・ビタミンです。脂肪酸のうち、体内で合成できないものを必須脂肪酸といいます。食事などから摂り入れる必要があるわけです。
猫の必須脂肪酸はリノール酸とアラキドン酸です。人や犬は体内でリノール酸からアラキドン酸を合成することができますが、猫は合成することができません。
リノール酸やアラキドン酸はオメガ6系に分けられます。なんのこっちゃ!?という人も多いかと思いますので簡単に説明しますね。
脂肪酸は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられます。不飽和脂肪酸は、オメガ3系脂肪酸やオメガ6系脂肪酸、オメガ9系脂肪酸などに分けられます。これは構造上の特徴からなのであまり気にする必要はないです。
重要なのはここからで、オメガ6系脂肪酸は皮膚や被毛を健康に保つためにとても必要なのです。
もうひとつ、オメガ3系脂肪酸も忘れてはいけません。オメガ3系は炎症を抑える作用があるので、自己免疫疾患などを起こしている場合に効果が見込まれます。
実はオメガ6系には炎症作用があります。免疫機能を高めるということなのですが、それが過剰に反応するとアレルギーや自己免疫疾患を引き起こしかねないのです。
このようなことから、オメガ3系とオメガ6系をバランス良くとることが必要です。キャットフードにも添加されているのですが、普通の食事をしている飼い猫では、オメガ3系が不足しているといわれます。
オメガ3系脂肪酸のは慢性腎不全の猫さんのサプリとしても人気で、たくさんのサプリメントが製造・販売されています。
猫のアトピー性皮膚炎まとめ
アトピー性皮膚炎は強いかゆみを伴うので、猫にとってストレスは相当のものです。それが症状をさらに悪くするという悪循環を生んでしまいます。
アトピーの原因はさまざまな要因が複雑に絡み合って発症するもので、治療によってすっきりと治るという性質の疾患ではないことはたしかです。
ただ、治らないから諦めるのはちょっと違います。炎症の強いときは薬を使うなどして二次感染を防止したり、生活環境の見直しで症状を軽減させることは十分可能です。
アトピー性皮膚炎を上手にコントロールして、猫ちゃんの生活の質を低下させないようにするには、一緒に生活して一番その猫ちゃんのことを知っている飼い主さんの理解が欠かせません。