TNRした耳カット猫が子猫を連れて現れた!?避妊手術の方法と現状に思うこと
ツイートTNRは外で暮らす飼い主のいない猫が、これ以上増えないために避妊去勢を施して元の場所に戻す活動です。地域のトラブルを減らし、少しでも人と猫が負担なく共生できるために必要なことです。
手術済みであれば、当然妊娠出産するはずはありません。ところが、今回知り合いの猫ボラさんに、手術済みの証である耳カットのある雌猫が子猫を産んだという相談がありました。
この記事では、猫の避妊手術の方法及び日本の現状について紹介します。
猫の避妊手術の方法は?そのメリットとデメリット
ペット先進国といわれる欧米諸国はもちろん、日本でも猫の避妊去勢手術が推進されています。
その理由は、(1)意図しない出産による猫の遺棄、殺処分を減らす(2)生殖器の病気の予防になる(3)性ホルモンが関係する問題行動を抑える
これらが言われています。上記ついてはあとで詳しく説明しますね。
今回はメス猫の避妊手術にスポットをあてて、どんな方法があるのか調べてみました。術式は主にこれらがあります。
- 子宮卵巣全摘出法
- 卵巣摘出法
- 子宮摘出法
- 卵管結さつ手術
- ジースインプラント手術(インプラント埋込手術)
猫の不妊(避妊)手術で何を摘出するかが問題?
今現在猫を飼っている方々、あなたの愛猫はどんな方法の手術を受けましたか?ほとんどの獣医さんはきちんと手術内容を説明してくれたと思いますが、「避妊手術をする」というだけで安心していませんか?
私が初めてメス猫の手術をしてもらった動物病院の院長は、「まずバリカンで毛を剃って・・・この辺をこのくらい切って・・・卵巣と子宮をとって縫合しますねぇ」
と、くわしーく説明してくれました。まだ若かった頃の話なのでちょっと引いてしまったのを覚えています。今は大丈夫!
さて、上記で挙げた術法の『子宮卵巣全摘出法』『卵巣摘出法』『子宮摘出法』について説明します。このうち、子宮摘出法はほとんど行われていません。
なぜなら、猫の避妊手術には妊娠しないという目的のほかに、発情を抑えるということも大事だから。確かに、子宮がなければ妊娠はしません。
でも、卵巣が残っていると発情も起こるし、将来の乳腺腫瘍抑制も見込めません。
猫は犬より乳腺腫瘍になる確率は低いといわれていますが、注意すべきなのは腫瘍のうち悪性の割合が高いということ。
乳腺腫瘍の原因は、ホルモンや遺伝などはっきりしたことは分かっていませんが、避妊手術をしていない中高齢のメス猫の発症率が高いこと、避妊手術を受けた月齢によって発症率が違うことがわかっています。
一般的には、猫の避妊手術と言ったら『子宮卵巣全摘出法』『卵巣摘出法』のどちらかです。
猫の避妊手術は子宮卵巣全摘出法が最善なのか?
うちの子たちはみんな子宮卵巣共に摘出しています。手術したのは全部別の病院です。転居したことが理由です。術後はどの子も特にトラブルもなく過ごしています。
まわりの猫オーナーに聞いても、みんなこの術法でした。子宮が無ければ子宮蓄膿症などの生殖器の病気になりようがないですから、この方法が主流になっているのだと思います。
ただ、意外なことに『子宮卵巣全摘出法』と『卵巣摘出法』では病気の予防という意味では違いはないと考えられているのも事実なのです!
子宮蓄膿症は黄体ホルモンの分泌が関係していると考えられています。たとえ子宮が残っていても、卵巣が無ければ蓄膿症などになることは理論上ありえない!というのが理由です。
全摘出と卵巣のみ摘出のメリットとデメリット
病気予防において差異がないとしたら、何を基準に獣医さんは術式を選んでいるのか気になりますよね。そこで、ふたつのメリットとデメリットを比べてみましょう。
子宮卵巣全摘出法 | 卵巣摘出法 | |
メリット | 子宮にまつわる病気の心配がない |
傷口が小さく済む |
デメリット |
傷口が大きい |
取り残しがあると卵巣が再生する |
※傷口に関しては、全摘出術でも使用する器材や最近では腹腔鏡手術(内視鏡による手術)では傷口は小さく済みます。
卵巣のみ摘出する術法の問題点
上記のメリット・デメリットで『子宮にまつわる病気の心配はない』については、先述したとおり卵巣のみの摘出でも確実に行えば差はないと考えられています。
そう、ここで問題なのは確実に!ということなんです。少しでも取り残しがあると卵巣は再生してしまいます。これが今回知り合いのボランティアさんに相談のあった件の顛末なのです。
実例:卵巣が再生して出産してしまった母猫
2020年1月、TNR歴20年以上の知り合いのボラさんに、行政から1本の電話がありました。東京の大田区で以前TNRをして避妊手術をした猫が、子猫を連れて現れた、と。
相談内容としては、未手術の猫が数匹いるのでその子たちの手術依頼と、件の母猫の再手術でした。
なぜ前回のボランティア団体ではなくAさんに相談が来たかと言うと、一度捕まった猫(特に女の子)は用心深くなっているので捕獲が難しいことと、前回TNRを依頼したボランティア団体に対する不信感があったようです。手術したのに子猫産んだのだから当然ですね。
AさんはTNRの大ベテランです。難なく残りの未手術の子とママ猫を捕獲し、病院へ連れて行きました。ママ猫は確かに耳カットしてあります。予想はしていたのですが、前回手術した病院を聞いて「なるほどね」と思ったそうです。
そこは卵巣摘出法で避妊手術をします。TNRは手術が終わると元の場所に戻します。猫の体に負担の少ない術法は卵巣のみ摘出ですから、その病院が一概に悪いわけではありません。
ただ、確実に卵巣が摂りきれていなかった・・・というのが大きなミスだったのです。
再手術で摘出した卵巣と子宮の画像を提供してもらったので掲載しておきます。
V字の部分が子宮で、その先に卵巣があります。しっかり再生しているのがわかります。
今回ママ猫が連れて現れた子猫は、すでに生後4ヶ月以上に見えたそうです。摘出してわかったのですが、次の子猫がすでに着床して妊娠状態でした。
Aさんはやるせない気持ちになったと言ってました。きちんと避妊手術をしていれば、こんなことにならないのに・・・と。
結果として堕胎となってしまったこともそうですが、2度もお腹を切られることになってしまったママ猫は本当に気の毒です。
摘出法以外の猫の避妊方法
猫の避妊手術とは妊娠しないことが目的です。一般的に言われているのは、終生妊娠・出産をしないようにする、いわゆる不妊手術です。
『子宮卵巣全摘出法』『卵巣摘出法』『子宮摘出法』以外の避妊方法についてちょこっと説明しますね。
卵管結さつ手術は、卵巣と子宮の間の輸卵管を縛って、排卵された卵子が子宮にまで到達できないようにするという手術です。
卵巣があるから発情はします。ただ、妊娠しないという目的だけなら、この方法でも良いのですが、当然ながら病気予防という意味では何の役にも立ちません。
さらに、開腹して卵管を結ぶという手術は簡単なものではないと言います。何のためにするの?と疑問だらけの方法ですよね。
黄体ホルモン剤を含んだインプラント剤を皮下に埋め込んで発情を抑制します。1回の処置で1年効果がありますが、その期間が過ぎたらインプラントを取り出す必要があります。
取り出せばその後妊娠は可能です。これは、今は出産させたくないけどいつかは・・・というオーナーさん向きの避妊方法です。
ただ、これは黄体ホルモンを放出させて常に擬似妊娠状態にしてコントロールするわけで、子宮蓄膿症などにかかる可能性が高いです。一般のオーナーさんにはおすすめできない方法といえます。
その他、ホルモン剤を投与して避妊する方法もありますが、日本では一般的ではないようです。
猫の避妊手術が子宮卵巣全摘出法が主流な理由
現在日本では子宮と卵巣を摘出する術式が主流です。これは実感として分かります。ただ、一昔前は卵巣摘出法が主流だったようです。
その後、子宮を残すことによってその後子宮蓄膿症になるという説が流れ始め、やっぱり子宮も取ったほうが良いとなったという経緯があります。
ところが、最近の研究によってこの二つの術式による子宮蓄膿症等の発症の確率には差がないことが判ってきたのは紹介しましたね。
だったら、猫の体に負担の少ない方が良いのでは?と思いませんか。
それでも尚、子宮卵巣全摘出法が多い理由は、ざっくり言うとアメリカの獣医学会がそうだから・・・。日本の獣医学界はアメリカの影響が大きいのです。
アメリカの獣医が、本来猫に負担の少ない卵巣摘出法ではなく、子宮卵巣摘出法を選ぶ理由は、ズバリ訴訟を避けるため、と言われています。
アメリカは訴訟大国ですからね・・・。卵巣を取り残して妊娠したり子宮蓄膿症になったりしたら、獣医師の責任が大きく問われることになります。
そんなに取り残しが多いの?とも疑問ではありますが、今回の件で実例を見たのでなるほど・・・と思ったのも事実です。
ただ、手術自体と予後の猫の負担をメリットとデメリット照らし合わせて、卵巣だけ摘出する方法を推奨している獣医さんもいます。確かな技術があってのことですが。
最後に
今日本では、たくさんの猫が避妊手術をしています。そのせいで、安易に考えている人も少なくないかもしれません。
獣医さん任せで、どんな方法で手術をしたのか確認しないままだったり、抜糸まで終わったら安心してませんか。
卵巣が再生して妊娠してしまった―こういうのはひんぱんに起こることではありませんが、愛猫が手術を受ける時には、どんな方法なのか・副作用の可能性は?最低限の確認はしましょう。
今回、TNRで怖い思いをしたにもかかわらず、人間側のミスで2度もお腹を切られた猫さんは、本当に気の毒で可哀相に思います。
TNRに関わるボランティア団体も獣医師も、根っ子のところでは外で暮らす猫が少しでも過ごしやすいようにという思いを抱いていることでしょう。
今回のことがほんとにたまに起こる レアケース であることを心から願っています。