シニア猫の嘔吐の原因がホルモンの病気の可能性?甲状腺機能亢進症とは?
ツイート猫はあの丸みのある体型とくりっとした瞳、全身を覆う柔らかな被毛で、いくつになっても愛くるしい姿をしています。そのせいか、つい中年期、老年期にさしかかっていることに気がつかずに過ごしてしまう飼い主さんも少なくないと思います。
うちの子、10歳を過ぎても元気で走り回ってるの。食欲もあるし運動しているからスレンダーなままよ・・・なんて猫ちゃんは要注意です。気がつくと最近たまに吐いているな。病院に連れて行ったら思わぬ病気になっていることもあります。
この記事では、シニア猫に多い甲状腺機能亢進症について紹介します。
猫の甲状腺機能亢進症とは?気がつきにくい理由とは
10歳以上の猫が嘔吐で受診した場合、多くの獣医さんが甲状腺機能亢進症というホルモンの病気を疑うといいます。
そのくらい、この病気は猫がかかりやすいということですが、甲状腺機能亢進症とはどんな病気で、嘔吐以外のどんな症状があるのか知っておきましょう。
甲状腺はどんな役割?
まず、甲状腺は体のどこにあって、どんなはたらきがあるのか?甲状腺は喉の横にあるホルモンの分泌腺です。甲状腺ホルモンはからだ全体の新陳代謝を促進するホルモンです。
甲状腺の病気として代表的なものが甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症です。前者は甲状腺ホルモンが過剰に出る病気、後者はホルモンが不足し、新陳代謝が衰えます。
猫は甲状腺機能亢進症が多く、反対に犬は甲状腺機能低下症が多いということです。
30~40代に発症しやすく、バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に作られる状態である甲状腺機能亢進症を起こす代表的な病気です。
橋本病は甲状腺に慢性の炎症が起きている病気です。炎症が進行して甲状腺のはたらきが悪くなると甲状腺機能低下症になります。
甲状腺機能亢進症ってどんな病気?
甲状腺ホルモンは新陳代謝を高めるホルモンです。これが過剰に分泌される病気が甲状腺機能亢進症です。これ、体に何が起こっていると思います?
体が常にフル回転している状態です。だから元気で食欲もあります。でも、食べても食べても消費されてしまうから太りません。
内臓のはたらきも活発になって、脈が速くなる(頻脈)・軟便や下痢といった便通障害もみられます。心拍数もあがるため、心臓の病気にかかるなど、放置しては危険な病気なのです。
甲状腺機能亢進症の症状は?
さて、猫の甲状腺機能亢進症は気づきにくいと言いました。それはひとことで言えば、
初期の段階ではとっても元気なシニア猫に見えるから!
よく食べ、よく遊び、よく甘え・・・。でも、病気のサインは必ず現れます。7歳以上の猫にこんな症状がみられたら、健康診断へ行くことをおすすめします。
- よく食べているのに痩せていく
- 水を飲む量が増えた
- 呼吸が速い・心拍数が高い
- 攻撃的になった
- 目つきがギラギラしている
- 暑がりになった
- 毛艶が悪くなった
- 嘔吐や下痢をする
- やたら鳴くようになった
よく食べているのに痩せてきた・性格が変わった(攻撃的になった)といったあたりが初期症状といえます。多飲多尿や嘔吐・下痢、心拍上昇・毛のパサツキなど目に見えて分かるときは、ある程度進行した状態です。
また、甲状腺は通常は触ってもわかりませんが、大きくなると首の上のほうを外から触っても感じられるようになります。
猫の甲状腺機能亢進症の診断と治療
猫の甲状腺機能亢進症の診断には血液検査が必須です。その他、動物病院ではどんな診察や検査をするのか、一般的なものを紹介します。
猫の甲状腺機能亢進症の診断
まず、触診を含めた身体検査を行います。この病気になった子のすべてではありませんが、甲状腺が腫れて外から触って分かる子もいます。
次に、血液検査・X線検査・血圧測定・心電図といくつかの検査をしていきます。病院によっては心臓の超音波検査をする場合もあります。
なぜ、こんなに多くの検査が必要なのか?これについては次で詳しく解説します。
シニア猫の場合、嘔吐や下痢などの症状で受診したときも、獣医さんはこの病気を疑いますが、検査をするまえに飼い主さんにきちんと説明があるはずです。
猫の甲状腺機能亢進症の症状は、他の病気の症状とよく似たものがあります。また、この病気になったことで併発する病気もあります。
食べているのに痩せていく、水をたくさん飲むといった症状は糖尿病でも起こります。腎臓病でもだんだん痩せていきますね。
嘔吐や下痢が続くと胃腸障害や肝臓の病気も疑われますし、呼吸が荒かったり心拍数が早いと心疾患かな?と思います。実際、この病気が原因で心疾患になることが多いのは先述したとおりです。
そのために、さまざまな検査の結果を踏まえた診断、治療法を決定する必要があります。
猫の健康診断で行われる血液検査は「血球計算(CBC)」と「血液(生)化学検査」の二つです。
- 血球計算(CBC)→赤血球・白血球・血小板を調べる
- 血液生化学検査→血しょうを調べる
血球計算(CBC)では、貧血や脱水、感染、炎症などがわかります。血液生化学検査では、腎臓や肝臓の異常や糖尿病などがわかります。
※検査項目や内容は各病院によって異なります。
オプションとして猫エイズや猫白血病ウイルス検査・甲状腺ホルモン検査はよく聞きますね。その他、血液型・心臓マーカー・膵炎検査などもあります。
血液生化学検査で肝機能に関わる項目のALT/GPT、AST/GOT、ALP/SAPの値は甲状腺機能亢進症の場合高くなります。
確定診断のためには、甲状腺機能検査として血中の甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの濃度を測定します。オプションのことが多いです。
猫の甲状腺機能亢進症の治療
甲状腺機能亢進症の治療は、薬などでコントロールしていく内科療法と、腫れた甲状腺を切除する外科療法があります。
まずは、抗甲状腺ホルモン薬を内服して様子をみる内科療法が一般的です。内科療法でうまくコントロールできないときは、甲状腺を切除する外科療法をする場合もあります。
ただ、甲状腺を切除してしまうと生涯にわたって甲状腺ホルモンを服薬することになるかもしれません。かも・・・というのは、以前は飲み続けなければならないとされていましたが、最近は外科手術後服用しなくても問題ないという報告が増えています。
猫の甲状腺機能亢進症のコントロールと外科療法について
猫の甲状腺機能亢進症では、内服薬による治療を継続していくことが一般的ではありますが、副作用もあり治療がスムーズに行かない場合もあります。
内科療法では、投薬量を見極めることが重要です。薬の効き目と副作用の調整だけでもたいへんですが、この病気治療でもうひとつやっかいなことが、隠れた病気が出現する可能性があることです。
どういうことかというと、この病気にかかると血圧が上昇します。慢性腎不全の猫は、腎臓に十分な血液が送られないのですが、甲状腺機能亢進症のため血圧が上昇して血流が確保されているわけです。
そして、治療を始めて血圧が平常時になると、一気に腎不全の症状があらわれることもあるのです。
治療薬の副作用は、多くの場合食欲不振や嘔吐などです。ひどくなければ薬の量を減らしたりしてコントロールしていきます。その他皮膚のかゆみで掻き壊してしまう、肝障害、貧血など、継続が難しい場合もあります。
このように、猫の甲状腺機能亢進症の治療は、副作用と他の病気の発現または悪化に十分気をつけながら継続していかなければなりません。
総合的に考えて内科療法でコントロールが難しい場合、外科手術で甲状腺を切除する方法をとります。
甲状腺機能亢進症の処方食でのコントロール
甲状腺機能亢進症の猫のためのフードに切り替えることで症状をコントロールができることもあります。このフードは、ヨウ素の量が制限されたフードでヒルズから販売されています。(y/d ワイディー)
ドライとウェットタイプがあり、3週間の単独給与で甲状腺機能亢進症のケアに役立つことが科学的に証明されているとのことで、獣医さんの評判も良いです。
他のフードと併用すると効果がなくなってしまうことや、きちんとコントロールされているかこまめな検査が必要になることなど、注意点がいくつかありますので、必ず獣医さんに相談してから始めましょう。
猫の甲状腺機能亢進症は予防できるのか?
猫の甲状腺機能亢進症のはっきりとした原因はわかっていません。そのため、予防らしい予防法もないというわけです。
とにかく早期発見早期治療が一番。7~8歳からは年に2回の健康診断が必要です。
まとめ
猫の甲状腺機能亢進症はまだ知らない飼い主さんが多いです。でも、高齢期といわれる7歳以上の猫では珍しくない病気です。
ただ、この病気の症状は初期の段階ではわかりにくく・・・むしろ年の割には元気!と思ってしまうので、病気の発見が遅れがちです。
原因がはっきり分かっていないので予防はできないことがもどかしいのですが、しっかり治療すれば症状のコントロールも可能です。また、最近は外科手術を行っている動物病院も増えているようです。
7歳以上になったら、定期的に健康診断(血液検査を含む)で早期発見早期治療を心がけましょう。